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Wataru Yamakami / Hikaru Nagatoshi

山上 渡 × 永利 光

美術作家・山上渡と宇宙分野の事業家・永利光による、領域横断的なクリエイティブユニット。
二人の視点は、土星最大の衛星・タイタンから広がる想像力を出発点にしている。アートと宇宙開発という異なる分野を架橋しながら、10年の歳月をかけて種子島における壮大なインスタレーション作品と、一編のSF小説を並行して紡ぎ出すことを構想している。
未知のフロンティアに挑むその試みは、現実と想像、科学と芸術の境界をゆるやかに往還しながら、新たな物語の地平を切り拓いていく。

山上渡 Wataru Yamakami

美術作家、株式会社黒山社中 代表取締役 CEO
絵画、立体、インスタレーション、ドローイング、舞台美術といった多様な方法を用い、「増殖と変容」そこから生まれる結びつきや関係性をテーマとしている。
マクロやミクロといった可視化できない領域と、私たちの日常を連関させることで、新たな超現実世界を描きだそうと試みている。
「岡本太郎現代芸術賞」特別賞(2009)、「Tokyo Midtown Award 2013」準グランプリ・オーディエンス賞受賞(2013)、2018年度文化庁新進芸術家海外研修制度によりインドネシア渡航。


永利光 Hikaru Nagatoshi

株式会社ALTILAN 代表取締役CEO
大学卒業後、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科に進学し、システムズエンジニアリングを専攻。新規事業開発を専門する株式会社Relicに入社後、複数の新規事業プログラムの設計及び運営を支援。また、大手通信キャリアや機器メーカーの新規事業開発を支援。2023 年1 月にRelicの浜松拠点を立ち上げ、拠点長として地域の事業創出を推進。
2024年5月、株式会社ALTILANを設立し、「誰もが行きたい星行ける世界・時代」実現を目指し、宇宙機器開発や宇宙事業へ参入支援を開始。土星の衛星タイタンへの到達が人生の目標。現在、個人としてSF小説「タイタンの星火(仮題)」を執筆中。

作品名 | 未知の無知 − タイタン Unknown Ignorance − TITAN

私はここ種子島で、土星最大の衛星であり、太陽系で2番目に大きい衛星〈タイタン〉の風景を、地球上に顕在化させる試みを始めようとしている。
地球以外で唯一、表面に安定した液体が存在する天体――それが〈タイタン〉である。
分厚い大気に覆われたその星には、地下に液体の水の海が広がっているとも考えられ、テラフォーミング(惑星地球化)の可能性をも示唆されている。

この、原初の地球によく似た星に惹かれるきっかけとなったのは、ある人物との出会いだった。
ある日、若き宇宙ビジネス起業家・永利光氏を紹介された。
宇宙開発をビジネスとして形にしようと模索する彼との対話の中で、
「〈タイタン〉に行くのが子供の頃からの夢だった」
という言葉に、私は強く心を掴まれた。

当時、宇宙をテーマにした作品を構想していた私にとって、その一言は強烈な呼び水となり、〈タイタン〉という存在に深く引き込まれていった。

永利氏は、一度は現実的な宇宙ビジネスの中で「タイタン」という夢を封印していたという。
収益化が難しいその目標は、「扱いづらい憧れ」として置き去りにされていた。
しかし、対話を通じて彼は再び〈タイタン〉への思いを言葉にし、現在は〈タイタン〉を舞台としたSF小説『タイタンの星火』の執筆を始めている。
彼は想像力によって、再び〈タイタン〉への旅を歩み始めたのだ。

本作〈未知の無知 ― タイタン〉は、そんな一人の起業家の夢と、私・山上渡の妄想と曲解とが交錯して生まれるインスタレーション作品である。

2025年の種子島宇宙芸術祭では、屋外作品として1/432,432スケールの“妄想のタイタン地表”を構築する。
素材には極力自然物を用い、雨や風といった自然環境の影響を積極的に受け入れながら、私は定期的に介入し、変化を記録し、更新を続けていく。
自然と人の手が交互に作用する、長期的な制作プロセスを前提としている。

またこのプロジェクトは、2027年にNASAが打ち上げを予定している無人探査機「Dragonfly(ドラゴンフライ)」が、2034年頃に〈タイタン〉へ到達し調査を開始する計画を、一つの時間軸として意識している。
人類がまだ知らない「仮のタイタン」を想像し、実際の探査によってその仮想世界がどのように裏切られ、あるいは照らされるのかを見届けるまでの、長期にわたるプロジェクトである。

この“妄想のタイタン”は、現在進行中の永利氏のSF小説と呼応しながら展開していく。
自然の力による風化と変化を受け入れ、それを糧に人の手で進化を続けていく。
人類の探査が〈タイタン〉の真実を明らかにするその日まで、
この作品は「未知なるものを想像する喜び」を静かに可視化し続けるだろう。

展示場所 | 宇宙ヶ丘公園

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